公開日: 2024/05/22
最終更新: 2024/05/22
参考資料
- Tableau Pulse
- Tableau Metrics and Natural Language Query Evolve with Tableau Pulse
- How Tableau Pulse powered by Tableau AI is Reimagining the Data Experience
- Tableau Pulse: Proactive Answers to Your Common Business Questions with Automated Insights
- Propel Your Data Culture with Generative AI
- How Tableau’s CRO Uses Tableau Pulse
- Tableau Conference 2024 - Main Keynote
- "Tableau Pulse" 史上最大のユーザー反響格差が多い新機能!?
2024.1からリリースされTC24 Keynoteでも盛り上がりを見せた、Tableau Pulseという製品があります。これはTableau Cloudユーザーであれば追加料金なく使用することができます。
どのような機能か、どのように使用するかについては有志の方々が記事化していらっしゃいますので、そちらをご覧ください。
自分も一通り触ってみました。執筆時点では機能的に足りないところを感じるものの、Tableau Pulseの方向性や使用感は面白く感じました。 有志の方々による記事の助けもあり、ある程度は「何が出来るか」を理解したため、この記事では「何のためにTableau Pulseが開発されたか、これは何を解決したいのか」を考察および言語化することを目指します。
後半では考察したTableau Pulseの目的とおよび現在の機能から、Tableauを使ったデータ可視化とPulseをどのように使い分けると良さそうかについて考察します。
注記
いちユーザーとして自分の解釈を言語化することを目的としています。正確でない部分や、中の人から見たら異なる見解もあるかと思います。ご了承ください。
Tableau Pulse(厳密に言えば、Tableau Pulseに移行された後のMetrics)にはデータガバナンス上の狙いもあると思いますが、この記事ではデータ活用上の内容に焦点を当てます。
この狙いについてはHeadless BIの考え方も重要になってくると思います。以下を参考資料としてご紹介しておきますね。
便宜上「AI」という言葉を使用します。ご了承ください。 ちなみにTableauも「Tableau AI」という言葉を作ったようです。
備忘録:Tableau Pulseのアップデートを知る方法
#Vizトークの中で、Shuntaさん(@Dandee_House)からTableau Pulseのアップデートを知る方法についてご教示いただきました。
Tableau - Core Product Marketingから公開されています。
(クリックしてTableau Publicに移動)
Tableauのバージョンアップは約四半期に1回ありますが、Pulseのアップデートはもう少し高頻度に行われているようです。Pulseのご利用や情報収集に際しては、こちらのVizを参照されると良いかもしれません。
Tableauが語るTableau Pulseが解決する課題
Tableauは様々なブログや資料でTableau Pulseを語っています。
多くの記事で内容は共通していますが、Tableau Pulseが解決する課題について以下が最も簡潔に述べているように思いました。
Today, making sense of data can be a time-consuming and manual process. Users might spend several minutes analyzing data to identify trends and insights, and it can be hard to know what questions to ask of your data. All of this can slow down decision making and hinder productivity. Tableau Pulse enables a smarter use of data by helping organizations automate analysis and communicate insights in easy-to-understand ways—that is, in natural language. . . . This will help you make better decisions faster, without having to spend time manually analyzing data.
日本語訳:
昨今、データの意味を理解することは時間のかかる手作業のプロセスになる可能性があります。ユーザーは傾向や洞察を特定するためにデータの分析に数分を費やすことがありますが、データに対してどのような質問をすればよいのか判断するのが難しい場合があります。これらすべてが意思決定を遅らせ、生産性を妨げる可能性があります。
Tableau Pulse は、組織が分析を自動化し、わかりやすい方法、つまり自然言語で洞察を伝えることを支援することで、データをよりスマートに活用できるようにします。
(中略)
これにより、手動でデータを分析する時間を費やすことなく、より迅速に、より適切な意思決定を行うことができます。
端的に言えば、自然言語を用いたデータ活用により迅速な意思決定を可能にすることが、Tableau Pulseの狙いだと理解しました。
Tableauはデータ可視化とVisual Analyticsを通して「Help People See and Understand Data」を実現するための製品であったと理解しています。 ただし上記の文章では「ユーザーは傾向や洞察を特定するためにデータの分析に数分を費やすことがありますが、データに対してどのような質問をすればよいのか判断するのが難しい場合があります。これらすべてが意思決定を遅らせ、生産性を妨げる可能性があります。」と述べられています。
「傾向や洞察を特定するためのデータの分析」は、我々がTableauを使うことで実施してきたことでした。これに対して「本当にそれが最適解か?」と疑問を投げかけているように見えます。
別のBlogでは、より具体的な問題提起をしています。
Business users ask business questions, not data questions—and abstracting beautiful visualizations from data alone to answer bespoke user queries does not satisfy their needs in the long term. . . . Would you want to type in that query or slight variations every single time, hoping the system is smart enough to answer it correctly and consistently? Would you want to explore multiple dashboards, only to find contradictory answers because of the data context and your way of filtering? Or would you simply want an answer that is crisp in response, trusted in nature, and that directly answers the question you care about—complementing it with visuals for better understanding?
日本語訳:
ビジネス ユーザーはデータに関する質問ではなく、ビジネスに関する質問をします。またデータから美しい視覚化を作成して特定の質問に答えるだけでは、長期的にはユーザーのニーズを満たすことはできません。
(中略)
システムが十分に賢く、正しく一貫して答えてくれることを望みながら、様々なクエリを毎回投げたいと思いますか?データのコンテキストやフィルタリング方法のせいで矛盾した答えしか見つからないとしても、複数のダッシュボードを調べてみたいでしょうか?
それとも、応答が早く、本質的に信頼でき、関心のある質問に直接答える回答が欲しく、それをより良い理解のために視覚的な要素で補完することを望みますか?
上記2つの内容に加え、他のTableau Pulseに関する資料の内容をまとめると、大きくは以下の問題提起をしていると思いました。
本当に可視化を用意することが最善か?もっと良い方法がある場合もあるんじゃないか?
ビジネスに関する質問の答えを知りたいのに、まずはデータに質問しないといけない。データに質問するために可視化を作らないといけないし、可視化の切り口も考えないといけない。出てきた可視化を解釈する必要もある。最初の質問の答えを得るまでに時間がかかっている。これでいいのか?
これがTableauが提起する問題で、Tableau Pulseが解決したい課題だと思いました。この内容を掘り下げてみましょう
Tableau Pulseの位置付けを考える
上記で述べたように、Tableau Pulseの扱う世界は一見すると、既存のTableau製品群が主に扱っていたVisual Analyticsとは異なる考え方を持っているように見えます。
実際に、Tableau Cloudユーザーが利用できる製品であるものの、Tableau Pulseは新しいインターフェースとして実装されています。ある意味でTableau Cloudとの境界を持っている、分離されているような印象を受けます。
ここでTableau Pulse以前のTableau Cloud環境とTableau Pulseの関連性を見てみましょう。
下図はそれぞれにおけるデータの流れの模式図です。
Tableau PulseはPublished Data Sourceに接続して使用します。 それ以外は接点がなく、いわゆるダッシュボード作成やデータ可視化、Visual Analyticsの世界とは離れているように見えます。
ところでVisual Analyticsと言えば、Tableauユーザーには馴染み深いCycle of Visual Analyticsの図がありますね。
出典:ビジュアル分析のサイクル
この6つのステップを先ほどの図に追加してみましょう。ただし簡単のため、Taskから順にActまで進んだ場合を考えます。また下図では同一のTaskに対して、可視化を作った場合とTableau Pulseを利用した場合で同一のアクションにたどり着いたとします。
Cycle of Visual Analytics の6つのステップを橙色または赤色で図示しています。 赤色は可視化を作った場合とTableau Pulseを使った場合の差分を示しています。
これらの差分を見てみましょう。
Tableau Pulseの世界では「Choose Visual Mapping」が無い。Metricsで表示される可視化はTableau Pulse側で自動的に作られる。
既存のTableau Cloudの世界では、人間がダッシュボード等のViewを見て、その意味を解釈することやViewを探索することを通して「Develop Insight」を行う。 一方Tableau Pulseの世界では、Tableau Pulseが自動でデータを解釈し、Insightを文章で提供する。
Tableauはバージョンアップを通して多くの機能を提供してきました。
可視化に関する機能に絞って言えば、それらの多くは「Choose Visual Mapping」と「Develop Insight」を支援するためだったと思います。
例えばParameter ActionsやDynamic Zone Visibilityのようなインタラクティブ性を強化する機能は、可視化表現の幅を広げることやダッシュボード上でのデータ探索の自由度を高めることを可能にし、そしてデータから得られる洞察の数を増やすこと、質を高めることに貢献していたように思います。
ただし「Choose Visual Mapping」「Develop Insight」のステップ自体が一定の技能を要求することから「意思決定を遅らせ、生産性を妨げる」可能性がある、つまり「Act」に至るまでのボトルネックになりえます。
この2つのステップを回避しつつ「Act」に至るための方法としてTableau Pulseが開発されたのかなと思います。
以下、先ほどの引用の一部を再掲します。
This will help you make better decisions faster, without having to spend time manually analyzing data.
日本語訳:
これにより、手動でデータを分析する時間を費やすことなく、より迅速に、より適切な意思決定を行うことができます。
ちなみに:
Tableau Pulseでは先にInsightを見てから補足的に可視化を見るパターンも全然ありそうなので、少なくともDevelop InsightとView Dataの順番が入れ替わりそうですし、何ならView Dataが不要になる場合もありそうですね。
Tableau PulseとTableauのミッション
結局のところTableau Pulseとは、Tableauユーザーが実践してきたVisual Analyticsの中から、スキルと時間を要求するステップをAIで代替するための製品だと思います。
Tableauは「Help People See and Understand Data」を支援する製品でした。
これまでのTableauは、それを実現するための方法としてVisual Analyticsを強化してきたと思います。
これからのTableauは、Visual Analyticに加えて(または派生して)、生成AIを活用した異なるアプローチを提供する。そういうことだと思いました。
注:
上記では可視化や分析に関する内容だけ取り上げていますが、Tableauはそれだけに留まらず、Slack含むSalesforce製品群と連携することでもHelp People See and Understand Dataを支援しています。
上記はTableauの世界の一部だけ扱っていることにご注意ください。
Tableau Pulseでは人の能力に依存しやすい可視化作成と洞察を形作る部分を、AIの力により効率化しています。場合によっては高度化も達成しているかもしれませんね。
ただしTableau Pulseで全部良いのかというと、少なくとも執筆時点での機能性からはそのように言えず、またその製品思想からも全てを代替しない気がします。
この点について見ていきましょう。
Tableau Pulseとダッシュボードの住み分け
執筆時点での機能面から、Visual Analyticsの一般的な成果物であるダッシュボードとTableau Pulseを比較してみます。
以下、2024.1バージョンにおいて感じた主要な違いを記載します。
Tableau Pulseしか出来ないこと
データから分かる洞察を自動生成する
ただし後述の理由から、包括的な分析から導かれる洞察ではない
自然言語でデータに質問できる
Tableau Pulseが出来ないこと
包括的な可視化を作成し分析する
表示期間や比較期間を自由に選択する、 過去について分析する
可視化の色のルールを自由に設定する
Tableau Pulseの一番の強みは、洞察が自動生成されることだと思います。
また洞察を得たい質問も、自然言語で聞くことができます。
一方、Tableau Pulseは基本的に「指標ひとつひとつに対する洞察」を提供するため、包括的な洞察を得ることには不向きだと思います。
例えば売上が増減したとして、その理由は顧客数にあるのか単価にあるのかを見るためには、それぞれのMetricsを作成して見比べる必要があります。
また目標値などの補足情報を可視化や洞察に加えることはできません。
このような様々な情報を加味した(視覚的)分析を行いたい場合は、Tableau Pulseよりもダッシュボードの方が適しているように見えます。
またMetricsの表示期間は下図のように選択肢の中から選ぶ必要があり、対応して比較期間が自動的に設定されます。
ダッシュボードではパラメータ等を活用して対象期間を自由に選択できますが、Tableau Pulseは「現在」に焦点を当てているようなので、選択期間の自由度は低いです。この理由のため、過去についての分析にも適しません。
最後に「可視化の色のルールを自由に設定する」ことが出来ない点ですが、Metricsにおける色は、その指標の増減に対する意味合いを元に、Tableau Pulseが自動で設定するようです。
したがって、例えば指標が閾値以上かである、ディメンションごとに色分けをする、というような色付けは難しいようです。
ここまでの内容から、Tableau Pulseとダッシュボードどちらが適当かを判断するポイントには、以下が挙げられると思います。
対象が「現在」に集中したものか。「過去」を見るまたは探索する必要があるか。
対象に対する分析が必要か。高速な現状把握および簡単な洞察が必要か。
対象を(目標値や関連指標など一緒に)包括的に見て理解する必要があるか。
対象を解釈する上でその増減が重要か、ビジネスルールが重要か。
まあ実際には完全にTableau Pulseとダッシュボードが切り分けられることは無く、お互いに補完的な関係になるのかなと思います。Tableau Pulseで得た洞察をダッシュボードで検証する、などは全然ありえますよね。 実務上は、ある程度Visual AnalyticsとTableau Pulseの世界を往復しながら「Act」にたどり着くのかなと思います。
ただしTableau Pulseが目指すのは洞察を高速かつ簡単に手にいれる世界なので、ダッシュボードが担っていた部分の中でこの目的に合致するものは、Tableau Pulseに置換される流れになるのかなと思います。
余談:今後のCreator/Explorerの役割を考える
Tableau PulseはVisual Analyticsの世界を代替または補完するだろう、ということを書きました。
ということで、ダッシュボードを作っていたCreator/Explorerの方々には、その中身や利用ユーザーをTableau Pulseに流していく仕事が出てくるように思います。
Creator/Explorerの役割はVisual Analyticsのサイクルを回しながら可視化を作成し、それを元に自身またはユーザーに意思決定し行動してもらうことでした。
これからはTableau Pulseも意識した、ユーザーのデータ活用行動の設計を担うことも必要になるのかなと思います。要は、Tableau Pulseの方が適切な場合を見極めてダッシュボードから切り離していったり、Tableau Pulse側で色々と作ったり整備していく仕事です。
TC24 Keynoteでも(あくまでもコンセプト段階のようですが)発表のあったWorkspaceもそうなのですが、今後はCreator/Explorerが担う領域はVisual Analyticsからどんどん広がっていくように思います。
Tableau Conference 2024 - Main Keynote (Workspaceに関連する内容は52:07 - 1:12:36)
Tableau Prepや仮想接続が出たときも広がったように、データを活用するための環境や周辺領域にもっと関わることが、これからのCreator/Explorerなのかなと思いました(その頃にはライセンスや呼び方が刷新される、もう少し役割が細分化されるかもしれませんが)。
上記の内容を書くにあたり、こちらの@Rika_Olga_Fさんのポストを参考にさせて頂きました。自分にとって納得感が大きく、ぜひこちらもご覧ください。
最後に: Tableau Pulseはパラダイムシフトになるか
Tableau Pulseの目的と価値について、およびダッシュボードとの今後の住み分けについて考察しました。
最後に、この記事を書こうと思った理由について言及します。
Tableau Pulseの意味について整理したかった一番の理由は「本当にTableau Pulseいる?この流れに乗っても良いの?」という疑問を持っていたからです。
Tableau Pulseと似た機能は元々Tableauにも実装されていましたし(あまり流行っていない印象ですが、Data StoryとかExplain Dataとかですね)、Metricsもダッシュボードで概ね代替できると思っていました。配信とかニュースフィード的な画面も、別にダッシュボード作ってSubscriptionで出来ますよね。
この考えを変えるきっかけになったのは、TC24 KeynoteのWalid Mehanna氏の発表でした。Tableau Pulseを「パラダイムシフト」と表現していました。
TCでの発表なので、まあこれは盛られた表現だろうと最初は思っていました(あとTableauの資料とか発表、パラダイムシフトという単語が頻出している気がするんですよね)。
そして発表が進むにつれて、役員目線でのダッシュボード活用に関する課題に言及しました。端的に言えば、ダッシュボードは質問に答えないんですよね。ダッシュボードを解釈して、ダッシュボードから答えを作る必要があります。
ですが、このときは自分の中では「パラダイムシフト」だと思えるほどの衝撃や刺激にはなりませんでした。数分間の発表なので内容は限られており、またTableau Pulseのコンセプトを深く理解していなかったからです。 一方で「パラダイムシフト」という言葉は心に残っていました。
一通り調べて書いてみた今では、おそらくVisual Analyticsや既存Tableau製品によるアプローチからの(部分的な)脱却や、自然言語を用いた新しいデータへの接し方が、先ほどの「パラダイムシフト」が意味することなのかなと思います。
ただしパラダイムシフトが本当に起きるには、(2024.1時点では)機能面でまだまだ不十分だと思います。おそらく今はTableau Pulseの体験を少人数で楽しむ期間で、想像と不満を膨らませつつ、機能が追いついた時の起爆剤を蓄える時期なのかなぁと。
まあ自分もTableau Pulseを実際に触ってから短く、これから情報や経験を蓄えるにつれて考え方も変わっていくと思います。
この記事を適宜アップデートしたり、Xの方でなにか呟くかもしれません。Tableau Pulseの今後にも、知見を積む自分にも期待ですね。
これから色々な活用事例が出てくると思います。
事例から学び、また多くの方の考えに触れてみたいですね。
質問などありましたら、XかLinkedinまでお願いします。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。